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OETR連携研究グループ事務局
東京大学生産技術研究所  北澤研究室
153-8505  東京都目黒区駒場4-6-1

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2013年2月に刊行された、
第1から第3回までの
OETRシンポジウムの成果をまとめた
報告書『美しく力づよい東北復興』より




サーヴェイ#01
シビックプライドと海洋エネルギーの現地訪問調査──
ニューキャッスル「NaREC」とオークニー「EMEC」
黒崎明

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2012年12月16日(成田発)から12月23日(成田着)にかけて、ニューキャッスルの国家再生可能エネルギーセンターNaREC)とオークニーの欧州海洋エネルギーセンターEMEC)を訪問し現地調査を行なった。
東京大学生産技術研究所OETR連携研究グループは、本研究と並行して、岩手県から「三陸復興・海洋エネルギー導入調査事業」を受託しており、その事業の一環として実施したものである。都市再生やスマートコミュニティが世界的な流れになるなかで、洋上風力や海洋エネルギーの開発・利用がどのように位置づけられているかをみておく必要があったからである。現地訪問に先立ち(8月)、EMECには釜石湾を中心とした海洋エネルギーセンターの暫定的なプロットを提示したうえで、その予備的な概念設計を検討依頼しており、その検討結果の報告を受けるという目的もあった。
このツアーには、私のほか、岩手県から斎藤淳夫氏(岩手県沿岸広域振興局長)、木村久氏(岩手県商工労働観光部商工企画室企画課長)、小鯖利弘氏(小鯖船舶工業代表、釜石市議会議員)が参加、英国内ではスコットランド開発庁(SDI)のポール・オブライエン(Paul O’Brien)さんが同行してくれた。

ニューキャッスルとゲーツヘッドの都市再生事例

最初の訪問地ニューカッスル・アポン・タイン(Newcastle upon Tyne)は、人口約30万の北部イングランド最大の都市で、周辺のゲイツヘッドやサンダーランドを含め100万人都市圏の中心である。産業革命以来、まちを支え続けてきた鉄鋼・造船業は衰退し、今日では、商業・サービス業・観光業に重点を置いた産業構造への転換に成功した都市再生事例として知られている。
2012年3月27日の第2回OETRシンポジウムの講演「シビックプライド──まちの未来をつくる自負」のなかで、伊藤香織は「再生されるまちをたんなるモノではなく、まちの人にとって忘れられないコトにしていく。そのプロセスをデザインすることが、ひとつめのポイントです」と言う★1。そのことを説明する事例がこの地である。
12月17日の午前中に、都市再生の象徴的建築物が集積しているタイン川沿を散策。ニューキャッスル側からスイング橋をゲーツヘッド側に渡り、川沿いを進むと左手にタイン橋、右手に「セージ・ゲイツヘッド音楽ホール」(都市再生のシンボリックな建築として知られるコンサートホール)を見ながら「バルティック現代アートセンター」に至ると、たもとにミレニアム橋がかかっている。「バルティック現代アートセンター」はかつての製粉工場を改築した美術館であり、誰でも無料でコンテンポラリー・アート作品を鑑賞することができる。11時をまわる頃、まちの中心部を後に、郊外にある「エンジェル・オブ・ザ・ノース」を見学した[fig.01]。雨の中、ギターを抱えた俳優を使った撮影ロケが行なわれており、この偶然出会った機会も含めて、都市再生のテーマを感じ取ることができた。

エンジェル・オブ・ザ・ノース
fig.01
エンジェル・オブ・ザ・ノース
撮影=東京大学生産技術研究所


National Renewable Energy Centre (NaREC

ブライス(Blyth)にあるNaRECには午後2時頃に到着。3時すぎには薄暗くなるので訪問は慌ただしい。
NaRECは、英国の再生可能エネルギー全般についての国家的研究機関であるとともに、エネルギー分野でニューキャッスルの都市再生を担っているという自負がある。洋上風力に最重点が置かれており、波力と潮力発電の開発にも取り組んでいる。従業員は約90人で、ブレード試験、タービン試験、電気、海洋関係の様々な試験施設を備え、再生可能エネルギー利用に関する研究、コンサルタント、試験、実証、顧客の技術開発支援などのサービスを行なっている。
ブレード試験施設は全長100メートルまでのブレードに対応でき、破壊試験を行なって世界標準に従って合否判定ができる。ドライブトレイン試験施設は20年の耐用試験を3カ月間で行なうことができる。現在は3メガワットまでであるが、2013年には最大15メガワットの試験施設が完成する。
センターの3マイル沖合には計測タワーが設置され、2013年から気象、鳥類挙動、環境影響の観測を開始する。2014年には洋上風車15基99メガワットの洋上ウインドファーム建設が予定されている。
英国には、ラウンド1から3までの3段階で2020年までに25ギガワットの洋上ウィンドファームを建設する欧州最大の計画がある。2013年から始まるラウンド3では、NaRECの100マイル沖合に最大9ギガワットを建設する。送電方式は、ラウンド1、2は交流であったが、ラウンド3は直流になる。
どんどん沖合に進出するため大型化が不可避で、現在、発電機1基あたり最大出力は3−6メガワットだが、今後は5−8メガワットに大型化される。その一方で、鉛直軸型の新しいタイプの風車の開発も行なっている。
また、風力発電には未だに反対する人たちがいるので、社会の受容性に関する研究も行なっている。洋上ウィンドファーム計画は漁業と競合し、漁業者との調整は大きな問題になっている。許認可事項(Consenting Process)のひとつに、「漁業者と交渉して理解を得る」という事項があり、交渉を担当する機関もあるという。こうした制度面においても日本より進んでいることがわかった。
波力と潮力発電は、市場・技術ともに風車に比べて未成熟な分野であり、NaRECは多くの開発プロジェクトに携わっている。10分の1スケールあたりからがNaRECが関わる範囲で、大学とEMECのあいだをつなぐ役割を担う。いくつかの装置ではパワーテイクオフ・システムの開発を担当した。

EMECとオークニーの地域振興

ライネスの海洋エネルギー工業団地開発予定地

12月18日午前中にエジンバラ空港からオークニー本島のカークウォールに移動した。到着後、ランチもそこそこに慌ただしく桟橋に向かい、いきなりボート・トリップとなった[fig.02]。大型の低気圧が近づいていることから、翌日の予定を急遽繰り上げたためである。

乗船した船舶
fig.02
乗船した船舶
撮影=東京大学生産技術研究所


オークニー市のパイロット船に乗船、同行してくれる市役所とハイランド&アイランド開発庁の職員、乗員、合わせて10名程度が乗り合わせ、途中、石油基地につながるパイプラインに寝そべるあざらしとあいさつを交わし[fig.03]、40分程でホイ島のライネス(Lyness)港に接岸。下船すると、ボーダーコリーが尻尾を大きく振って歓迎してくれる[fig.04]。ここの名物犬だそうで、名をフライという。岸壁にはペラミスとペンギンという2種類の波力発電装置が係留されている。ライネスは1時、海軍基地として賑わったようだが、いまはその面影はなく、寂しい。あるのは、待合所とペラミス修繕のための作業場、そしてちっぽけな海軍博物館である。ところが、この地に波力発電を中心とする海洋エネルギーの工業団地開発計画がある。市の経済開発部長であるショーナ(女性)さんがマスタープランを説明してくれた。企業団地と住宅地に区分されているなどだが、詳しくはわからない。視察のあいだ、1行の周囲をフライがついてまわり、時に先導する。さすがは牧羊犬である。帰りはフェリーに乗船、いったん石油基地のあるフロッタ島を経由して、本島のホートン・ターミナルに接岸する。山際に美しい夕焼けが広がるなかを、迎えのバスに乗り換えてホテルに戻る。

パイプラインに寝そべるあざらし
fig.03
パイプラインに寝そべるあざらし
撮影=東京大学生産技術研究所


どこにでもまとわりつくボーダーコリーの「フライ」
fig.04
どこにでもまとわりつくボーダーコリーの「フライ」
撮影=東京大学生産技術研究所



オークニー市役所、山間島嶼開発公社、公共施設

12月19日は、盛りだくさんのスケジュールで詰まっている。
カークウォールの中心部にあるオークニー市役所を訪問し、市役所のショーナ・クロイ(Shona Croy)さんと山間島嶼開発公社(HIE=Highland and Islands Enterprise)のグレアム・ハリソン(Graeme Harrison)さんにお会いする。お二人は、きのうの船によるツアーを仕切ってくれた方たちであり、それぞれEMECを今日たらしめた功労者であるという自負をもっている。お二人から、海洋エネルギー開発と市政との関わりについてお話を伺うことができた。
オークニー市の人口約21000人にして市職員は2000人と多い。市の一般会計は55百万ポンドで80パーセントは国からの交付金である。さりながら、海洋エネルギー開発のおかげでスコットランドで最も活気溢れる市であり、失業率も小さいという説明である。EMECのステークホルダーは、欧州共同体、英国政府、スコットランド政府、オークニー市、HIE、カーボントラストの6団体で、このうちオークニー市、HIE、カーボントラストの3団体がオーナーである。これまで、基盤整備に26.8百万ポンドを投資、今後、20百万ポンドの投資を予定している。EMECはこれまで、オークニーに250人のフルタイム雇用と57百万ポンドの付加価値を生み出したという。観光の島でもあり、年間観光来島者数は13万5千人、内3万5千人が大型クルーズ船客である。
オークニーの電力需要は夏48.7メガワット、冬74メガワット。20メガ・ボルトアンペアの海底ケーブル8本が設置されている。陸上では小型風車が500基、合計5メガワット普及している。農家、家庭が許可なしにグリッドにつなぐことができる。電気の買い取り価格はキロワット時28ペンス(20年間固定)で、設備投資は5年で回収できるという。こういった説明を受けたあと、近所にあるスコティッシュ・アンド・サザン・エネルギー(送配電会社)のオフィスを訪問、運用が始まったセミ・スマートグリッドの設備と電力制御システムについて説明を受けた。
EMECのあるストロムネスに移動する途中、潮力発電開発企業団地として拡大中のハドソン桟橋地区を見学[fig.05]。雨脚が強くなってきた。

ハドソン桟橋地区
fig.05
ハドソン桟橋地区
撮影=東京大学生産技術研究所



EMEC訪問

19日の午後から20日にかけてストロムネスにあるEMECのさまざまな専門分野の方々との会議が続く。
はじめに、代表のニール・カーモード(Neil Kermode)さんと研究担当役員のジェニファー・ノリス(Jennifer Norris)さんにお会いし、お二人からは、EMECの生い立ち、海洋エネルギー利用技術の進歩とオークニー経済にどれだけ貢献したかという説明を受けた。
EMECは顧客1社から年間百万ポンドの収入。収入の55パーセントは地元企業に落ちる。送電設備は使用料を徴収し、売電収入は開発者に還元している。エネルギーの移送には、潮力8社と波力5社が電力ケーブルを利用し、アクアマリン社はパイプを利用している。スコットランドのアクアマリン・パワー社が開発する波力発電システムであるオイスターは、オイスター・ワンからオイスター800に進化し、また、スコットランドのペラミス・ウェーブ・パワー社が開発する波力発電システムであるペラミスは4連結タイプから5連結タイプに改良して全体も長くなるなど、海洋エネルギー技術の完成度はEMECのテスト・サイトで着実に高まった。
なお、カーモード代表は、2013年1月末に来日、1月30日に釜石ベイシティホテルで開催した岩手県主催(東京大学共催)の講演会で地元市民を対象に講演を行なっている。
次に、地元企業AQUATERA代表のガレス・デイヴィス(Gareth Davies)さんとお会いした。デイヴィスさんは、22年前にオークニーに移り住み、以来、再生可能エネルギーの普及に努め海洋エネルギーについてはEMEC創成期から関わりをもち、われこそが今日たらしめた地元功労者であるとの自負がある。AQUATERAは、再生可能エネルギー関係のプロジェクト開発を顧客とする調査会社であり、エネルギー戦略プランニング、地域調査、海域調査、環境影響評価などが専門である。2020年の姿を描きながら海洋エネルギーの普及促進に取り組んでいる。岩手の海象状況などもよく調べていたのには少し驚かされた。こうした熱意溢れる民間人といえばサムソー島のソーレン・ハーマンセン氏が思い起こされるが、たずねたところ、ハーマンセン氏とは国境を越えてのつながりもあるようだ。
翌20日はオフィス訪問前に波力発電のテスト・サイトと陸上のサブステーションを見学した[fig.06]。折からの大型低気圧による波浪の中、沖合かすかにペラミスの勇姿を望むことができた。

サブステーション内の配電設備<
fig.06
サブステーション内の配電設備
撮影=東京大学生産技術研究所


9時半頃にはEMECのオフィスに入り、技術担当役員ジョン・グリフィス(John Griffith)さんと運営担当役員スチュアート・ベアード(Stuart Baird)さんから委託業務の報告を受けた。施設計画、建設スケジュール、建設コスト、建設体制、運営管理、安全管理など多岐にわたるとともに、それぞれ経験に裏付けられた説得力のある内容であった。
昼過ぎには、EMECのみなさんにお礼と別れを告げ、カークウォールに戻る。途中、古代遺跡(Standing Stones)、聖マグナス礼拝堂、ハイランドパーク蒸留所を見学し、なにやら幸せな気分に包まれてゆく。
翌21日も大型低気圧は猛威を奮い、ロンドンではヒースロー空港が閉鎖になる騒ぎもあったようだが、カークウォール空港7時40分発のBE6891便はなにごともなくエジンバラ空港に到着した。おかげで悪天候による欠航に備えてスケジュールを組んだきょう1日のバッファをフォース・ブリッジやエジンバラ城はじめ全域が世界遺産になっている旧市街の見学にあてることができた。
翌日22日エジンバラ発アムステルダム乗継のKLMで12月23日9時55分成田空港に帰着。明日はクリスマス・イヴである。


初出=『OETR最終報告書  美しく力づよい東北復興』(東京大学生産技術研究所、2013)。




★1──伊藤香織「シビックプライド──まちの未来をつくる自負」(『OETR最終報告書  美しく力づよい東北復興』([東京大学生産技術研究所、2013]、40頁)。

 

 

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